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信長が秀吉を「禿鼠(はげねずみ)」と呼んだ手紙がある。そう聞くと、信長が秀吉へ、面と向かって叱るような文面を想像しませんか。
この手紙の宛先は、秀吉本人ではなく、妻のおねです。 誰のことを書いているかと、誰に読んでもらう手紙なのか。そこを分けると、一通の見え方が変わります。
埼玉県立文書館の古文書講座の解説を手掛かりに、まず宛先と、返事を出した場面から見ていきましょう。
おねの訪問と土産へのお礼が、手紙の背景にある
文書館の公開教材は、この一通を「羽柴秀吉室杉原氏宛消息」として紹介しています。「室」は妻、「消息」はこの場合、手紙を指す言葉です。
教材の説明では、おねが久しぶりに安土へあいさつに訪れ、信長は、たくさんの土産へのお礼も兼ねて返事を出しています。そこへ、武人の妻としての心構えを諭す言葉を添えた、とされています。
つまり、秀吉への悪口だけが単独で届いたわけではないんですね。贈り物を受け取ったことと、おねに向けた言葉がある。その中で、秀吉について触れています。
同じ教材は、ほとんどが仮名で書かれていることにも注目しています。仮名は、ここではひらがなを中心とする文字です。字を一つずつ解読する前に、誰へどう伝える文書なのかを考える入口になります。
ただし、一通から信長の性格を全部決めたり、この夫婦の暮らしを隅々まで分かったことにしたりはできません。おねがこの返事をどう受け止めたかも、この解説だけでは分かりません。
有名な呼び名を見つけたら、誰が誰へ何の返事をしたかも添えよう
歴史の手紙は、印象に残る一語が紹介されやすいもの。その言葉が気になったときこそ、短いメモを三つ添える方法を提案します。
- 書いた人は信長。
- 宛先は秀吉の妻、おね。
- おねの訪問と土産へのお礼を含む返事。
この三つがあれば、後で読み返したときに「信長が秀吉本人へ送った説教」と混同せずに戻れます。先ほどの教材は信長の書状全文を掲載した資料ではないため、原文の細かな読みや訳を知りたくなったら、次は本文を載せた資料を探す、という疑問も残せます。
書状の内容を本でも読みたい人には、二木謙一著『戦国武将の手紙』があります。KADOKAWAの紹介でも、おねをたしなめる信長の手紙を扱うと確認できます。合戦の話だけでなく、武将の私的な手紙にも関心がある人の候補です。
今回販売を確認したのは楽天Koboの電子書籍です。紙の文庫が届く商品ではないので、読む端末や利用方法を購入前に確認してください。書籍の全本文や、この手紙の解説全文は今回読んでいません。
人柄が見えそうな一言に出会うと、ついそこだけ覚えたくなります。でも、宛先を一つ戻すだけで、お礼や返事という手紙の役割も見えてくる。
次にこの手紙の話をするときは、「おねに宛てた手紙で」と一言添えてみてください。その一言が、一通の相手を取り違えないための目印になります。