信長の肖像画は生前に描かれた?長興寺の一幅を、制作時期・衣裳・修理記録から読み、顔だけでは分からない歴史を一緒にじっくり読もう!

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信長の顔、と言われて思い浮かべたその絵。
ちょっと待って。その肖像画、いつ描かれたものだろう?

顔を知っているつもりでも、制作された時期まで聞かれると、あれ……となるかもしれないね。そこで今回は、愛知県豊田市の長興寺が所蔵する一幅に絞って、絵の背景をたどってみよう。

先に答えると、豊田市博物館の解説では、信長の一周忌に奉納された肖像画として紹介されています。生前にその場で描いた絵、として紹介されているわけではありません。

えっ、亡くなったあとの絵なの?
そう。ここを知ると、顔の似ている・似ていないだけでは済まなくなるのよ!

誰が、どんな機会に残したのか。服装は何を伝えているのか。そして、今の私たちが見るまでにどんな手当てがされたのか。順番に見ていくと、一枚の絵に向ける問いが増えていきます。今回は無料で読める公式資料を入口に、肖像画をもっと比べたくなった人向けの本も紹介するね。

目次

一周忌のための肖像画。まず、描かれた時期を顔の横に置こう

長興寺の信長像について、豊田市郷土資料館が2017年に発行した修理報告は、本能寺の変の一年後にあたる1583年、長興寺で一周忌法要が営まれ、生前の姿を偲ぶために制作されたと説明しています。

1583年の絵。描かれているのは信長。
この二つを、ひとまとまりで覚えてみて。

肖像を見ると、つい人物の生きていた場面をそのまま眺めている気持ちになるけれど、絵が作られた機会は別にある。ここでは、亡くなった人を偲ぶという機会が説明されています。

だから、最初の問いを少し変えよう。
「この顔は本人そっくり?」の前に、「何のために、この人の姿を残したの?」。

豊田市博物館の文化財紹介では、奉納した人は家臣の余語久三郎正勝とされています。絵を描いた人と、寺へ奉納した人は違う。この区別も、実は読み進めるときの助けになります。

手元にメモを作るなら、人物をずらっと並べず、役割を添えてみてね。描かれた人物が信長、作者が狩野元秀、奉納した人が余語久三郎正勝、所蔵する寺が長興寺。これなら「信長が長興寺へ自分の肖像を贈った」といった別の筋書きにならずに済みます。

作者について検索すると、元秀と宗秀、二つの名前が出てくることがあります。
ここ、別人が描いた二枚の絵だと思わなくて大丈夫。

修理報告は、元秀が狩野永徳の弟で、号が宗秀であると説明しています。東京文化財研究所の写真資料の作者欄にも、この両方の名前が並んでいます。文化庁の文化遺産データベースでは、作品名に狩野元秀筆と記されています。

ただし、名前がつながったからといって、制作の細部まで全部確定したことにはなりません。たとえば修理報告の、元秀へ依頼した事情についての説明には、推測の形で書かれた部分があります。記事を読むときも、その言い方を残したいところ。

「奉納した人が分かった」から、「依頼の会話まで分かった」へは飛ばない。そこに架空の台詞を足さなくても、誰かがこの姿を残そうとしたという背景は、十分に読みどころになるよ。

一周忌に奉納されたこと、作者の名前、依頼事情についての推測。この三つを同じ確かさで扱わない。それが、この一幅を読む最初の足場です。

制作時期は豊田市郷土資料館だより100号の修理報告、作者名は文化庁の作品情報でも確認できます。

他の武将の肖像も制作背景と一緒に見たくなったら、二木謙一・須藤茂樹著『戦国武将の肖像画』が関連する本の候補です。ここで説明した制作事情の出典は上の公式資料であり、この本を読了した感想として紹介しているわけではありません。

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顔から少し視線を外して。衣裳の説明を読むと、肖像の問いが広がる

顔の印象に引きつけられるのは自然なこと。でも、いったん衣裳の説明にも寄り道してみよう。

豊田市博物館は、信長が身に着けた桐の紋のある肩衣と白綾の小袖について、格式の高い衣裳だと解説しています。

ここ、服にも説明があるのよ!
目や口元だけを見ていたら、まだ拾っていなかった情報です。

この解説から考えられる入口は、肖像に描かれた姿を「普段、家で過ごす信長の姿」とすぐに受け取らず、衣裳を含めてどのような姿が示されているかを見ること。格式の説明は、人物の見せ方を考える手がかりになります。

ただし、「格式が高い衣裳」と「本人の性格」は別の話。
衣裳の説明を読んだからといって、本人がいつも派手な服を好んだ、こういう服で人を威圧した、と今回の一幅だけから決めることはできません。

顔の印象についても同じです。たとえば画像を見て、厳しそう、落ち着いていそう、と感じたとする。その感想は、自分がどこを見てそう思ったのかを書けば、鑑賞のメモになります。でも、それを本人の性格を証明する資料として扱うと、話が一段飛んでしまう。

楽しく見ることと、分かる範囲を保つことは、一緒にできるよ。

おすすめは、メモを二段にする方法です。上には公式解説で確認した衣裳の名前や制作の機会。下には、実際に自分が図版を見て気になった場所や感想。上と下がすぐ混ざらないようにしておけば、あとから読み返したときも、どこが説明で、どこが自分の印象か分かります。

図版が小さくて紋まで見えない場合は、無理に見えたことにしなくていい。「公式解説に桐の紋とある。手元の画像では細部を確認できない」と残せば、そのメモはちゃんと次につながる。

拡大図がある資料を探す、別の図版を見比べる、展示の解説を読む。次にしたいことが具体的になるからね。

もう一つ、肖像の図版を比較するときは、顔の拡大だけで終えず、全体図も見よう。どこまで描かれているか、文字があるか、周囲にどんな余白があるか。まず全体の位置関係を見てから細部へ近づくと、部分だけでは出てこなかった疑問が見つかるかもしれません。

この「全体と人物部分を行き来する」読み方に関係する本が、『戦国武将の肖像画』です。国立国会図書館の紹介では、肖像画の全体と人物部分の拡大図が掲載され、巻頭には読み解き方や装束の解説があるとされています。信長も対象人物に含まれています。

ただ、本の内部を通読して、長興寺本の掲載位置や各解説の結論まで確認したわけではありません。ここでは図版の構成と解説の分野が、衣裳も見ながら肖像を読む目的に合う候補として挙げています。

他の肖像と見比べるなら、最初から「誰が一番立派に見えるか」を競わせなくてもいい。服装、制作時期、制作の機会のうち、一つを決めて比べてみて。それぞれの違いに、ちゃんと理由を探したくなるはず。

衣裳については豊田市博物館の文化財紹介、本の構成については国立国会図書館の書誌と紹介を参照しました。

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修理で分かったことって?描かれた時代から、守られてきた時間へ

制作された年が分かったら、それで絵の時間が止まるわけではありません。
この一幅は、その後も保管され、修理され、今へ伝えられてきました。

2017年の修理報告の6〜7ページを読むと、目に見える傷みへの手当てだけでなく、材料の調査についても説明されています。ここは、戦国時代の人物を知る話から、残された物をどう守るかという話へ、関心が広がるところ。

報告が記す修理前の状態には、横方向の折れや亀裂、虫食い、黒カビなどがありました。修理では裏打ちを取り替え、補彩は最小限に行ったとされています。

裏打ちって、どこ?と思ったら、絵が描かれた本紙を裏側から支える部分を思い浮かべてみて。表に見える絵だけでなく、それを支える側にも手当てが必要だった、ということです。

また、以前の修理で署名と印を見せるために裏打ち紙を部分的にくり抜いていたことが説明されています。今回の修理では、その署名と印を写真記録に残したうえで裏打ちを行ったと報告されています。

ここで考えてみたいのが、「見せたい情報」と「絵を支えること」の関係。
署名は作者を考えるうえで大事。でも、そこを見える状態にしておくことだけを優先できるわけではない。写真で記録を残すという対応も、作品と情報の両方を次へ伝える方法なんだね。

資料を読む側としても、正面の図版に署名が見えないから作者は不明、と早合点しないようにしたいところです。作者の情報が、画面の裏側の調査や記録に関係する場合もある。表から見える範囲と、調査で分かる範囲は、必ずしも同じではありません。

材料の調査では、竹の繊維が確認されたこと、畳と衣裳の緑が異なる材料によることも報告されています。

同じ緑に見える部分でも、材料は同じとは限らない。
ここ、色を眺めているだけでは気づけない読みどころ!

ただし、衣裳の具体的な染料については、報告の個人的見解の部分でも確定できないと書かれています。候補の材料名を、そのまま「使われた材料」として覚えないでね。

修理報告を読むときは、見出しにも目を向けると助けになります。状態の説明、科学的な調査、そして筆者が絵描きとして述べた個人的見解が、一つの報告の中に並んでいるからです。ひとつのPDFだから、全部が同じ種類の記述とは限らない。

たとえば「調査で確認された材料」と「作者はこう考えたのではないか」という説明。前者は調査の結果として、後者は筆者の解釈として読もう。解釈の面白さを楽しむためにも、その区別は残したい。

この修理報告は2017年の資料です。そこに書かれた当時の展示環境の課題を、現在もそのまま続いていると扱うことはできません。絵の修理履歴を知る資料として読むことと、今日どこで見られるかを調べることは、別の調べ物になります。

修理後の写真を「信長が生きていたときの色の完全な再現」と決めつけるのも避けたいところ。今回は報告が説明する処置と調査の範囲を読み、今へ届くまでの手当てに注目しています。

本で肖像の図版を眺めるときにも、出版された年を確認しておくと、この修理履歴を読み合わせやすくなります。『戦国武将の肖像画』は2011年刊行なので、2017年の修理報告まで含めた本だと思って選ばないようにしよう。

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一幅から次の一冊へ。今夜は「顔の印象」の横に、ひとつだけ背景を足そう

もっと見たいけど、いきなり本を一冊読み切るのは重い。
それなら、今日は長興寺の一幅のメモだけでも十分です。

おすすめの始め方は、文化財の作品名と制作の機会を先に書くこと。そこから、衣裳の解説を一つ、修理で分かったことを一つ選んで足してみよう。「信長の絵を見た」で終えるより、次に調べたい場所が残ります。

たとえば、こんなメモにできます。

作品は、長興寺所蔵の織田信長像。公式解説では一周忌の奉納と説明されている。衣裳には格式についての解説がある。修理報告では、画面を支える裏打ちや材料の調査について知ることができる。

ここまで書いたら、最後に自分の問いを一つ。
「他の信長像も、同じ機会に描かれたのかな?」でも、「肖像の服装には、ほかにどんな種類があるのかな?」でもいいよ。

問いが一つあると、次の本でどこを読みたいかが決まります。生涯の出来事を追う本が欲しいのか、肖像そのものを比べる本が欲しいのか。今回の続きとして後者を選ぶなら、『戦国武将の肖像画』は題材が直接つながっています。

二木謙一・須藤茂樹著、新人物往来社刊、2011年1月の単行本。国立国会図書館の書誌では159ページ、ISBNは9784404039637です。

楽天市場では、同じISBNの商品情報を持つ中古本の掲載を確認しました。リンク先はISBNの検索結果なので、注文する店舗の商品ページで書名、著者、ISBN、状態を見てね。似た題名の別の本や、違う商品のおすすめ欄と取り違えないためにも、最後は商品情報まで開こう。

中古の掲載では、商品写真が届く個体を保証するものではないという注意や、書き込み、折れなどがある場合についての案内もありました。図版を見たい本だからこそ、状態の説明も選ぶ材料です。状態が分からず気になるときは、その点を確認してから決めよう。価格、在庫、送料、配送日数は変わるため、ここでは固定の条件として紹介していません。

本を買う前に、まず図書館の所蔵を調べる方法もあります。国立国会図書館サーチには地域の図書館の所蔵情報も載っていますが、貸出や取り寄せの可否は利用する図書館へ確認してね。手元に置きたいか、一度内容を確かめたいかで、入口を選べば大丈夫。

実物を見に出かけたい人は、もう一つだけ注意を。豊田市の現在の文化財一覧では、長興寺所蔵の信長像について豊田市博物館保管と記されています。でも、「保管されている」は「いつでも展示されている」と同じ意味ではありません。

過去の特別公開の記事を見つけても、その会期を今年の予定に読み替えないでね。出かける日が決まったら、豊田市博物館の展示案内や館への問い合わせで、対象の信長像を見られるか確かめよう。作品の紹介ページに載っていることだけで、当日の展示を決めるのは早いです。

なお、保管先の確認には豊田市の指定文化財一覧を使いました。図書の掲載情報と、文化財の公開予定も、それぞれ別に確認するものです。

さあ、もう一度あの肖像へ戻ってみて。
顔の横に、一周忌という制作の機会がある。衣裳には解説がある。裏側には、守ってきた手当ての記録がある。

最初は「知っている信長の顔」だった一幅に、もう少し近づけそうじゃない? 次は、自分が気になったところからでいい。顔の似ている・似ていないの先へ、一緒に見ていこう!

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この記事を書いた人

織田信長の生涯、人物像、ゆかりの地を、史料や諸説に目を向けながらたどります。

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